埼玉県 春日部法律事務所

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相続


遺産(宅地)の評価方法について

遺産分割の協議をすることになりました。宅地について、幾つも評価の仕方があるようですが、どの基準を使ったら良いでしょうか。
遺産分割は遺産の分配方法を定める手続きですので、その前提として評価が問題になります。

 この点、家庭裁判所では、宅地の評価方法に関して、原則として鑑定によるが、当事者が鑑定以外の方法によることを合意した場合には、その合意内容が不合理、不相当でない限り、合意を尊重してよいとし、鑑定以外による方法として、固定資産評価額、路線価を利用する方法、当事者が不動産業者等の意見をもとに評価額を合意する方法を挙げています。

 まずは固定資産評価額ですが、固定資産税算定の基準とするため、市区町村が、宅地については公示価格や不動産鑑定評価額の7割を目途として算定しています。

 次に路線価ですが、これは相続税や贈与税算定の基準とするため、国税庁が、1月1日時点における主要道路に面した宅地等の1平方メートルあたりの評価額を算定しています。一般的に公示価格の8割程度の水準で定められています。
ところで、これらの評価基準は実際の土地の取引価格とは乖離することがあります。例えば、都内に近く、学校や買い物の利便が良いなど、人気の住宅地では、実際の取引価格は、これらの評価額を上回ることがしばしばです。他方、農業振興地域における宅地など、買い主を見つけるのも難しい地域もあります。そこで、このような場合、地域の土地取引に明るい不動産業者に査定して貰い、評価額を合意する方法もあり得るわけです。

 なお、公示価格という言葉が出て来ましたが、これは国土交通省が公表するもので、実勢価格に近似な評価と言われてますが、公表されている地点が少ないため、評価基準として使い難いという問題があります。

 以上のとおり、いくつもの評価方法がありますが、裁判所の説明にもあるとおり、相続人の合意が必要であり、しかも合意の内容が不合理、不相当でないことが重要になります。

 土地には様々な個性がありますので、相続人間で協議を始める前に、不動産取引の専門家の意見を聞いておくと良いと思います。



「ウチの子たちに限って」は淡い期待。
先延ばしにすると子供たちが争う火種になる 【事業の承継問題】

 日本には421万企業があり、その99.7%(419.8万社)が中小企業ですが、さらに、その内の9割弱が小企業(製造業・その他では従業員20人以下、商業・サービス業では従業員5人以下)です。

 また、日本の企業の95%は同族経営で、このような企業では、【後継者問題】が発生しやすくなっています。

 例えば、父親が社長で、長男が専務、二男が営業部長、長女が経理部長といった典型的同族会社では、父親が健在なうちは円満であっても、次世代へのバトンタッチを考え始めた途端、子供たち3人の仲が怪しくなり後継者問題が生じる、といったことは珍しくありません。

 ところで、これまで多くの弁護士は、兄弟間の仲違いが決定的になった段階で初めて、役員の解任、解雇、又は相続等の問題について相談に応じてきました。

 しかし、仲違いが決定的になった段階では、お互いにかなり感情的になっており、もはや話し合いは難しく、解決の方法が限られてしまいます。
つまり、円満な解決を図ることが非常に困難になるのです。

 そこで、問題が表面化する前に、まず企業価値を正確に把握し、現実的な解決方法を協議し、そもそも問題が生じにくい企業承継のイメージを掴むことが大切です。

 その上で、関係者に情報を伝え、解決に向けて事前に提案することにより、円満な解決を図りやすくなります。

 仮に、その提案が奏効しなかったとしても、遺言書等の作成を通じて、後継指名した者が、他の相続人との関係で支障なく事業を承継できるように手続きすることもできます。

 企業経営者にとって、子や従業員に波紋を投げかけそうだと躊躇しがちな【事業承継問題】ですが、後で揉めないようにする為には、次世代に丸投げすることなく、事前に方向性を定め、交通整理しておくことが大切です。

 当事務所は、トラブル勃発後ばかりでなく、このように“事前にトラブルを防ぐ”為のご相談にも積極的に応じておりますので、早目に一度いらして頂くと良いでしょう。

相続の法律問題その1(相続法改正について)

 民法の相続編(以下、「相続法」と云います。)は、昭和55年に配偶者の相続分の変更(3分の1から2分の1へ)及び寄与分制度の創設が行われて以来、ほとんど実質的な見直しがされてきませんでしたが。平成25年9月4日、最高裁判所が「嫡出でない子」の相続分を「嫡出子」の2分の1としていた当時の規定が法の下の平等を定める憲法14条1項に違反すると判断し、間もなくこの規定を削除する内容の法律案が成立したことを契機に、広く見直しが検討されるようになり、今般、大きく改正された次第です。
 そして、具体的には大きく分けて、①被相続人の死亡により残された配偶者の生活への配慮等の観点から、配偶者居住権の創設及び婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置が、②遺言の利用を促進し、相続をめぐる紛争を防止する観点から、自筆証書遺言の方式緩和及び法務局における自筆証書遺言の補完制度の創設が、③その他、預貯金の払い戻し制度の創設、遺留分制度の見直し及び特別の寄与の制度創設等が、今回の改正内容となっております。
 またこれらの改正は段階的に施行され、例えば自筆証書遺言の方式緩和は2019年1月13日より、遺留分制度の見直しは2019年7月1日より、また、配偶者居住権については2020年4月1日より既に施行されています。

生前贈与について

父が亡くなり、相続人は兄と私だけです。遺産は2千万円相当の財産があります。先日兄より、「遺産を半分ずつ分けよう」と提案がありましたが、兄は5年前に仕事を独立した際、亡父より開業資金五百万円の贈与を受けており、このような援助を受けていない私には兄の提案は納得できません。亡父に遺言はありません。今後どのような協議をしたら良いでしょうか?
民法903条1項は、相続財産に特別受益を加えたものを相続財産とみなし、これを基礎として各相続人の相続分(一応の相続分)を算定し、特別受益を受けた者については、この一応の相続分から特別受益分を控除し、その残額をもってその特別受益者が現実に受けるべき相続分になる、としています。
 今回、お兄さんが生前に受けた贈与は、特別受益に当たる可能性が高いです。従って、相続する財産の総額は、2千万円相当の財産と特別受益5百万円の合計2千5百万円になります。各自の相続分はその半分の1,250万円になり、現実に受けるべき相続分は、お兄さんが1,250万円から既に受け取っている5百万円を差し引いた750万円相当の財産になり、あなたが1,250万円相当の財産になります。



寄与分について

亡父の遺産相続についての相談です。
 亡父は足が不自由だった為、3年前私の住まいに転居しました。相続人は私と私の弟だけです。先日私の弟より、遺産を半分ずつにしようと提案がありました。私は父の扶養や介護をしてきましたので、この点を考慮した分け方を希望しております。
 今後どのような再提案をしたらよいでしょうか。なお、父の遺言書はありません。
民法904条の2は、共同相続人中に、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がいる場合は、他の相続人との間の実質的公平を図るため、その寄与相続人に対して相続分以上の財産を取得させる「寄与分」という制度を定めています。
 さて、この「寄与分」の額ですが、まず当事者間で協議し、その協議が成立しない場合には家庭裁判所が審判で定めます。
 あなたは、弟さんに対し、遺産のうち一定の金額を「寄与分」として自分が取得したいと主張し、更に、残った遺産を半分ずつ分けたいと申し入れたら良いでしょう。
 なお、寄与分額は、扶養に関してであれば「実際に負担した金額」、介護についてであれば「療養看護の日数や付添人の日当」等から算出します。



相続・遺産分割の実際

最近知人が亡くなりました。この知人は内縁関係にある人と一緒に生活していましたが、相続人は全くいません。この知人の相続はどのようになるでしょうか?
まず相続人は、第1に子とその代襲相続人。第2に直系尊属。第3に兄弟姉妹とその代襲相続人がなり、配偶者はこれらの各相続人と並んで常に相続人となります。
 今回の質問は、このような相続人資格のある親族が全く存在しないという前提でお答えします。
 まずこのような場合、利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任し、故人の相続財産を清算します。
 相続財産管理人は、必要な範囲内で相続財産を管理換価し、一定の期間内に申し出のあった被相続人の債権者、受遺者及び特別縁故者に対し相続財産の分配を行い、その後に相続財産が残れば、これを国庫に引き継ぎます。
 特別縁故者とは、相続人がいない場合に、被相続人の療養看護に努めた者などです。その者からの請求に基づき、家庭裁判所が相続財産を分与する制度で、内縁関係にあった者はこれに該当する可能性があります。
 なお、特別縁故者は、相続人が存在しない場合の制度なので、相続人が1人でもいる場合、内縁関係にある者など相続人資格のない者が相続財産の遺贈を受けるには、被相続人の作成した遺言書が必要になります。



相続を放棄する場合

私は幼い頃父と別離しており、これまで父の所在を知りませんでした。
 ところが先月、金融機関から連絡があり、数年前に父が亡くなっているが、父には借金が100万円残っているので、これを支払うよう請求されました。
 私は、父のこの借金を支払わなければならないのでしょうか。
相続は被相続人の死亡により発生します。従って、あなたのお父さんの相続も、その死亡により発生し、あなたはその相続分に応じて、プラス財産のみならず、マイナス財産(借金)も継承することになります。
 しかし民法は、相続の承認・放棄の制度を設け、相続人の意思により、一応生じた相続の効果を確定させるか否認するかを選択できるようにしております。
 そして、相続の放棄をするには、相続人が「相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所に相続放棄の申述をしなけらばならないと定めており、この起算点は、相続の原因たる被相続人の死亡の事実を知り、それによって自分が相続人になったことを知った時とされております。
 そこであなたの場合、サラ金からの電話があるまでお父さんが亡くなったことを知らなかったのですから、直ぐに家庭裁判所で相続放棄の手続きを取れば、この借金を免れることができます。
 ただ、相続放棄をすると、相続人でなかったことになりますので、プラス財産も承継できなくなることをご注意下さい。



自筆証書遺言について

私には子供が3人おります。配偶者はすでに亡くなっており、現在資産として、自宅と預貯金を所有しております。最近子供達から、将来兄弟の仲がこじれないよう、遺産の分け方を決めておいて欲しいと言われました。私は「遺言書」というものを聞いたことがありますが、どのようなものがあるか教えて下さい。
遺言書には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の主に3つのタイプがあります。このうち、公正証書遺言は公証人役場で作成するもので、作成に当たり公証役場でアドバイスを受けることができます。また、秘密証書遺言は手続きが複雑なので、今回は自筆証書遺言について説明します。
 自筆証書遺言は、遺言者が、遺言の全文、作成年月日および氏名を自書し、これに押印することによって成立する遺言です。そして、内容を加除訂正する場合は、遺言者が変更箇所を指示し、これを変更した旨を追記して、特にこれに署名し、かつ変更箇所に押印しなければ、その効力を生じないとされています。
 なお、民法が改正されたので、2019年1月13日以降は、財産目録については手書きで作成する必要がなくなりました。もっとも、財産目録の各項に署名押印をする必要がありますので、ご注意ください。
 用紙が数枚になる場合は、後に連続性が分かるよう、各用紙の綴り目に契印を押したほうがいいでしょう。



弟が貸家を相続したが。

父が一年前に亡くなりました。
 相続人は私と弟の二人で、遺産は自宅と貸家でした。
 貸家の賃料収入は、父が亡くなってすぐに、私が父とは別の銀行口座を開設して、そこに賃料を振り込んでもらい、管理していました。
 先日、遺産分割協議が成立し、私は自宅を、弟は貸家を取得しました。
 ところが弟は、遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼって発生するのだから、父が亡くなってからの家賃は、さかのぼって自分のものになると言ってきました。
 家賃は、全部弟のものになってしまうのでしょうか。
確かに法律では、遺産分割は、相続開始の時(=父親が亡くなった時)にさかのぼって効力が生じると定めています。
 しかし、最高裁判所の判例では、遺産である賃貸不動産の賃料は、「遺産とは別個の財産」であり、「後になされた遺産分割の影響を受けない」とされています。
 そして相続開始から遺産分割までの賃料収入は、「各共同相続人が、その相続分に応じて取得する」とされています。
 つまり、お父さんが亡くなってから、先ほどの遺産分割協議が成立するまでの賃料は、あなたと弟が相続分の半分ずつを取得することになります。
 なお、遺産分割協議が成立してからの賃料は、貸家を取得した弟だけのものになります。



判例にみる法定相続人と生命保険受取人

先日、父が亡くなりました。相続について遺言書はなく、法定相続人である私、兄、妹の3人で、遺産を法定相続分に従って分割する話を進めていました。しかし、生命保険証書が見つかり、死亡保険金の受取人が妹とされていました。その額は、遺産総額に匹敵するほどの額です。
 私は、妹が法定相続分に加えて、生命保険金も受け取ることには納得できないのですが。
遺産整理中に生命保険証書が見つかり、その内容に不公平さを感じることは珍しくありません。
 しかし、判例(最判昭和40年2月2日)は、生命保険金は相続財産に含まれず、受取人の固有の権利であると判示しています。
 したがって、これを亡父の遺産だとするのは難しいです。
 もっとも遺産分割の手続きで、各相続人が実際いくらの財産を遺産から取得することになるかの具体的相続分を決めるにあたっては、この保険金を考慮することができるとした判例(最判平成16年10月29日)があります。
 この判例は受取人である相続人と他の相続人との間に生ずる不公平が、到底是認することができないほど著しいものである場合には、民法903条の類推適用により、持戻しの対象(相続人の特別受益)になるというものです。
 この判例が適用される要件を満たせば 、遺産取得割合が是正され、不公平さが改善されることになります。



同居の親、死後の…

私を含む子ら3名で亡父の遺産分割協議をしております。亡父の遺産には、自宅の土地と建物があり、同居していた私が、現在、この自宅に居住しています。
 ところが、先日の協議の際、他の相続人から私に対し、父が亡くなった後は、この自宅は子ら3名の共有になるから、賃料を支払うべきではないかと言ってきました。どのように考えたら良いでしょうか。
相続人の一人が亡親と同居していたというケースはよく見られますが、親元から離れて暮らしている相続人より、親と同居していた相続人が親の死後も無償でこの自宅に居住することについて納得できないという声を聞くことがあります。
 この点について、最高裁判所は、以下のように判示しています。

〔平成8年12月17日付判決〕
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居をしてきたときは、特段の事情がない限り、被相続人と右の相続人との間において、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用賃借契約が成立していたものと推測される。

 この判決のいう「使用賃借契約」とは、民法593条にて、無償での物の賃借とされており、この判決が適用されるケースであれば、あなたは、他の相続人との関係において、遺産分割時まで、無償で亡父と同居してきた自宅に居住することができることになります。
 ただし、この判決は、「特段の事情がない限り、…使用賃借契約が…推認される」とも判示しておりますので、他の相続人において、上記推認を覆す事情を証明することができれば、この事情に基づき、改めて事実認定が為されることになります。



離婚

【離婚】は、相手が非常に近しい存在なので、多くの人が「話し合いで済む」と安易に考えがちです。
ところが現実は逆で、密接していた関係だからこそ、別れるとなると、交通整理しなければならない問題が多く浮き彫りになってきます。そこへ愉快でない感情を乗せて互いの主張をぶつけ合いますので、結果的に解決が遠回りになったり、長く禍根を残すことになりがちです。
簡単にはいかないものと理解し、1つ1つ丁寧に問題を解きほぐしてスッキリした気持ちで新たなスタートを切って頂きたいと思います。


「不仲以上、離婚未満」状態を終わりにするには・・・

最近、特に結婚して30年以上経過した方の中に、「不仲以上、離婚未満」でお悩みの方が多いです。

「不仲以上、離婚未満」とは、端から見ると夫婦が破綻するような決定的要因が無いのに、実際には結婚を続けることを悩まざるを得ないような精神的苦痛を抱えている、という心と現実のギャップに苦しんでいる状況です。

【夫婦関係調整】とは、このような状況において、話し合いを通じて、夫婦をやり直すのか離婚せざるを得ないのかを見極める、ということを意味します。

例を挙げますと、60代の女性で、「妻や母はかくあるべき」と社会から期待される型枠に長年自分を合わせてきたが、子が成長し、親世代を見送り、やっと義務をやり遂げたのに、未だその型枠の中で無自覚に生き続ける夫と考え方が合わなくなった、というケース。

一方、男性の方は、家族の為に一所懸命仕事に励んできて、子を自立させ、ようやく半分リタイヤして余裕を持てる状態を迎え、さてこれからは妻とゆっくり余生を楽しもうと考えていたところ、いざそうなってみると、「亭主達者で留守が良い」と言わんばかりの妻の態度にイライラを募らせる、というケース。

また、夫婦の一方が我が強い場合、譲歩し続けるばかりのもう一方に苦痛や負担感が極端に偏り、我の強い方が気付かぬ内に、修復不能なほど溝が深まっていることもあります。

そこへ、相続など経済状況の変化も影響してくると、より複雑になってきます。

それにしても、長年最も身近で苦楽を共にしてきた相手と、なぜここまで行き違ってしまうのでしょうか。

その大きな原因は、互いを取り巻く環境や家族状況などがとっくに変わっているのに、その変化を受け入れられず、従来通りの生活スタイルや役割分担に固執しているところにあります。
また、更年期障害や認知症などによる判断力の低下も要因になっています。

まずは、私たちのようなプロの第三者視点が入ることで、ご相談者自身が、広く解決の道が開かれていることに気付くことが非常に大切です。

その上で、ご相談者とお相手が、働き盛りの頃とは様変わりした家庭生活の現況を認めてお互いの心身の変化や考え方の違いについて理解し直すことができるよう、サポートします。

夫婦が共有できる新たな価値観を構築し直すことで、今後も尊重し、協力し合っていける可能性が高まります。

家庭裁判所にも【夫婦関係等調整】という話し合いの場が用意されています。お互いに直接意見を述べ合うことが難しい場合は、裁判所で調停委員を介して話し合うこともできます。



女性の再婚禁止期間設定判決の波紋

平成27年12月16日、最高裁判所は、女性の再婚禁止期間に関する違憲判決を出しました。その内容は、民法733条1項が、女性について、前婚解消等から六か月経過後でなければ再婚できないと規定していることについて、このうち100日の期間設定部分のみ合憲とし、これを超える期間設定部分を違憲(憲法違反)としました。
 そもそも、憲法上、男女を問わず婚姻の自由が尊重されるべきことは当然ですが、民法733条1項は、父姓の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の予防を目的に、婚姻解消等から六か月間、女性のみに再婚を禁じており、これが事柄の性質に応じた合理的根拠のない差別を禁止した憲法14条1項に違反するかどうかが争点になりました。
 今回の判決は、民法772条が婚姻成立から200日経過後に生まれた子をその婚姻の夫の子と推定し、離婚の日から300日以内に生まれた子を離婚した夫の子と推定しており、離婚後100日間の再婚禁止期間を設ければ父姓の推定の重複を回避できるとして、民法733条1項がこの期間を超えて婚姻を制限しているのは違憲としました。この判決に関与した裁判官の1人より、離婚後300日以内に再婚し、かつその期間内に子が生まれた場合、その子が前夫の子と推定されることになるが、その推定自体に疑問があるので、科学的・客観的な判定により父子関係を形成する方法をとるべき等の補足意見が付されています。今後、本判決に基づく民法改正が為されますが、更なる議論が期待されるところです。




離婚に際して子の親権、養育費は?

結婚して10年ほど経ちますが、どうしても夫婦で考え方が合わず、話し合った結果離婚することになりました。
 離婚に先立ち、夫婦で何を決めておけば良いでしょうか。私たちの間には、小学生の子供が1人おります。
まず子供に関しては、親権者をどちらにするかということと、養育費を決めます。この金額は、東京家庭裁判所が作成した算定表を参考にすることができます(インターネットで「裁判所・養育費算定表の使い方」を検索してください)。
 さらに、親権者にならない親については、子供との面接交渉を決める場合があります。
 次に財産関係です。財産分与といって、夫婦で築いた財産(相続した財産や結婚前に築いた財産は対象外)の分け方を決めます。割合は半分ずつとするケースが多いですが、具体的な分け方は協議して決めます。
 一方が預金を、他方が家財道具を、という分け方も、双方が同意すれば可能です。また、今回は問題にならないかもしれませんが、一方に暴力や不貞など離婚原因となった事実がある場合には、慰謝料を決めることがあります。その金額はケースによって開きがありますので、弁護士に法律的な相談をなさった方が良いでしょう。
 その他、主婦の場合などは、離婚後、収入が安定するまでの生活保障として一定の金銭を受け取ることもあり、これもあらかじめ取り決めておく必要があります。



離婚に際し、子の親権は?最終的には家裁判断も。

結婚して7年目、子供が1人おります。現在、夫と離婚に向けた協議をしておりますが、お互いに子供の親権を希望しており、話し合いがつきません。どうしたら良いでしょうか?
まず親権とは、①子の身上監護権及びその義務。②子の財産管理権及びその義務。の総体を言います。あなたが①の身上監護権のみを希望し、夫が②の意味での親権だけを希望しているのであれば、これを分離した合意をして離婚することも可能です。
 しかし通常、夫が①と②の総体としての親権を希望している場合がほとんどでしょうから、この場合について説明します。
 まず、話し合いでどうしても解決できなければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、その中で再度、親権の帰属について話し合いを行います。そこでも決着が付かなければ、家庭裁判所における離婚訴訟で解決を図ることになります。なお、親権の判断基準をおおざっぱに説明しますと、①母親優先の基準(乳幼児については、特別の事情がない限り、母親の監護養育にゆだねるべきとする考え方)②原状尊重の基準(成長した子供の意思を尊重すべきとする考え方)などがありますが、現実的には、父母の心身の状態、生活態度、経済状態、監護補助者の有無、子供の意思等を総合的に考慮して、子供の福祉の見地から、家庭裁判所が定めることになります。



「性格の不一致」だけで離婚できる?

娘は結婚して1年足らずですが、最近夫と離婚したいと言ってきました。そこで私が事情を聴くと、夫が優しくしてくれない等と言い、要するに「性格の不一致」が理由のようです。このような理由で、離婚できるのでしょうか?
民法は、夫婦ともに離婚の意思があれば、その届出だけで離婚を認めています。なので、夫も離婚を希望していれば、その届出をするだけで正式に離婚することができます。しかし、夫が離婚を希望しない場合は問題になります。民法は婚姻が成立した以上、相手方の意思に反して離婚するには、法定の離婚原因を必要としています。これは、「不貞行為」等の他、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」とされており、本件のような「性格の不一致」が、この「重大な事由」に当たるか否かが問題となります。
 裁判では、「性格の不一致」を理由に離婚を認めたケースもありますが、一般的にはこれだけで離婚を認めるケースは少ないでしょう。というのは、夫婦であっても性格が異なるのが通常であり、双方の努力によって円満な夫婦関係を築くべきである以上、継続的に努力したが、もはや夫婦関係の回復を期待できない、というようなケースでなければ破綻が認められないからです。
 設問のケースでも、いきなり離婚手続きを進めるより、まずは夫婦関係の円満調整を目的とした家事調停を含め、きちんと夫婦間で、夫婦関係を回復させるための話し合いをすることをお勧めします。



離婚の場合の財産分与は? -築いた財産の折半が大勢-

私は結婚して20年になりますが、夫と離婚することになり、私が自宅マンションを出て行くことになりました。
 本日お尋ねしたいのは、この自宅のことで、これは結婚後、夫が2000万円の住宅ローンを組んで購入したものです。現在、残債が500万円になっています。
 最近私が不動産屋さんで調べたところ、最低でも1000万円で売れるそうです。しかし夫は、このマンションが夫名義であり、これを処分する意思がなく、しかも負債が残っているのだから、離婚に際し、この清算は必要ないと言い張っています。
 本当でしょうか?
いいえ違います。
 離婚に際し、夫婦の財産関係を清算する制度を「財産分与」といいます。
 あなたの質問にある自宅マンションであっても、その時価から住宅ローンを差し引き、残金が残るのであれば、その価値は夫婦で築いた財産になります。よって、財産分与の対象になります。
 その分与の割合ですが、夫に財産形成の特別の寄与があった場合を除き、通常、夫がサラリーマンで、妻が専業主婦のような場合でも、これを半々とするのが実務の趨勢だと思います。
 したがって、仮に上記の調査価格を時価とすれば、マンションの実際の価格(実勢価格マイナス住宅ローン)は500万円になりますので、妻にあたるあなたは、その半分である250万円の財産分与を請求する権利があります。なお、夫はこのマンションに引き続きお住まいになるようなので、その支払い方法は夫婦で協議する必要があるでしょう。



成人した子(学生)の養育費は…

私は10年前に夫と離婚し、子を引き取りました
 ところで、現在、子は大学に通っていますが、元夫は、子が成人したら養育費をストップする、と言っています。
 私の収入だけで学費を支払うのは難しいのですが、どうしたら良いでしょうか。
養育費の議論は、従来、専ら未成年の子を対象に行われてきたと思いますが、近時、大学、大学院、専門学校等へ進学する者が増えていることなどから、20歳に達した子についても、養育費が問題にされるようになりました。
 この点に関連した裁判をご紹介します。
 4年制大学に通学する成人した子が親に対して扶養料を求めた案件で、横浜家庭裁判所は「扶養義務者は、自己の成人に達した子に対しては、扶養義務として、特段の事情がない限り、…子に高等教育を受けさせるべき義務を負わない。」として、申し立てを却下しました。
 ところが、不服申し立てを受けた東京高等裁判所平成12年12月5日決定は、4年制大学に進学し、成人に達した子に対する親からの学費等の扶養の要否は、子の学業継続に関する諸般の事情を考慮した上で、判断すべきであって、子が成人に達しかつ健康であることをもって直ちに子が要扶養状態にないと判断することは相当でない旨述べ、横浜家庭裁判所に審理のやり直しを命じました。
 したがって、あなたとしては、子が成人した後の養育費について、元夫との間で、その不足する額、不足するに至った経緯、奨学金、子のアルバイト収入及びお二人の資力等の諸事情を考慮して、子の扶養の要否や扶養の額を協議すべきだと思います。
 なお、父母の間で協議が調わないときは、あなた又は子自身から、家庭裁判所に対し、これを決めるよう申し立てることができます。





労働問題

経営者の相談

労働者の相談

最低賃金法の改正

 令和3年7月14日に、中央最低賃金審議会(厚生労働省諮問機関)の小委員会において、2021年度の最低賃金を28円引き上げ、全国平均で時給930円にすることが示されました。
 今後、この答申を踏まえて、各地域別最低賃金が決まっていきますので、埼玉県の最低賃金はこれから決まることになります。
 まず、最低賃金法は、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないと定めておりますが、パートタイマーやアルバイトを含む全ての労働者に適用になり、また会社組織で労働者を雇う場合に限らず、個人で事業をされている方がアルバイトを雇うような場合でも適用になります。
 次に、この最低賃金は、基本給に一定の手当も加算することができますが、加算できないものもあります。通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与、割増賃金(時間外・休日・深夜勤務の残業代)などを加算することはできませんので、トータルの支給額が最低賃金額を上回っている場合でも、違法になる場合があります。
 最後にこれに違反した場合ですが、民事上、最低賃金額が賃金額とみなされ、不足額が賃金不払いになるほか、刑事罰(50万円以下の罰金)も定められており、これが法人と代表者の両方を罰する規定(両罰規定と言います。)になっておりますので、ご注意下さい。

進んでいますか、パワハラ対策!

 パワーハラスメント(パワハラ)に関して、中小企業にもパワハラ防止措置を講じる義務が生じるって聞きました。私も小さな会社を経営しており、概要を教えてもらえませんか。
 令和元年5月に改正された労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)により、①パワハラ防止の社内方針の明確化とその周知・啓発、②苦情等に対する相談体制の整備、③パワハラがあった場合の被害労働者へのケア、再発防止策の実施等が義務付けられました。また、労働者が相談をしたことを理由に解雇等の不利益な取扱いをすることも禁止されています。
 このパワハラ防止法ですが、大企業には既に対象になっているところ、『2020年4月から』中小企業も対象となるので、今から準備を進めておくべきでしょう。弁護士等の専門家に相談してみるのも良いかもしれません。
 会社として、パワハラのみならずハラスメント全般が許されないものだというメッセージを周知し、予防・対応の体制を整備すれば、労働者も働く環境に安心感を持つことができるので、仕事への意欲が増し、生産性の向上にも繋がるのではないでしょうか。



会社でのワクチン接種について

 私は従業員20人程の会社を経営しているのですが、従業員全員に新型コロナウィルスのワクチンを接種してもらいたいと考えています。社長として、全員に「ワクチン接種をするように。」と伝えても大丈夫ですか?
 ワクチン接種の環境も整ってきており、既に接種された方もいると思われますが、法律上気を付けたいのは以下の点です。
 現在の新型コロナワクチン接種は、感染症のまん延防止の観点から実施されているものであり、「接種を受けるよう努めなければならない」(予防接種法第9条)とされています。この規定の意味は、接種を強制できるものではなく、最終的に本人の判断に委ねられるということです。
 そのため、ワクチン接種を勧めることが一切禁止されるとは解されませんが、勧め方には慎重を期すべきです。社長が単に「接種するように」と述べると、強制されたと捉えられかねませんので、接種は任意であり接種しないからといって不利益を与えないことを伝えるとともに、例えば、接種の時間(会場までの往復等)は勤務扱いする等の工夫をすることで、従業員が安心して接種できる環境を作っていくと良いでしょう。





「労災保険」について

私は個人で製造業を営んでおり、数人の社員を雇っています。先日、そのうちの1人が、作業中に怪我をしてしまいました。わたしは労災保険に加入しておりませんが、今後の治療費等についてはどのように対処したら良いでしょうか?
 また、この社員の復帰のめどが立ちませんので、この社員を解雇したいと考えております。問題はないでしょうか?
まず、労災保険については、労働者を1人でも使用する事業所は、原則として、当然に保険関係が成立するとされています。従って、これまで相談者が労災保険料を支払っていなくても、業務中に怪我をした社員は、労災保険の給付を受けることができます(なお、相談者は国に対し、さかのぼって保険料を納付しなければなりません)。
 次に労災保険とは別に、相談者自身の安全配慮義務違反が問題になることがあります。例えば、法的に必要とされる安全装置が不備だったり、これを作動させていなかった場合など、事業者に安全配慮義務違反が認められた場合には、事業者に、慰謝料や後遺症等に関する損害賠償を命じた裁判例があります。
 最後になりますが、解雇に関して、労働基準法第19条は、労働者が業務上負傷した場合、療養のために休業している期間と、その後30日間の解雇を禁止しています。ただ、長期療養で一定の要件を満たす場合には、例外的に解除される場合があります。



「準備作業は労働時間か?」について

私は飲食店を営み、パート社員を数名雇っております。お店には制服があり、就業前に事務所で着着替え時間は替えさせておりますが、この着替え時間は勤務時間に入れておりません。また、多数のお客様が来店した際には、休憩時間中でもこれを対応するよう指示しておりますので、休憩時間中に制服を脱いだり、事務所から外出することも禁止しております。
 先日パート社員から、この着替え時間を勤務時間に含めてほしいと言われました。私は、着替えは仕事の準備であり、休憩時間中は仕事をしていないので、いずれも勤務時間に含まれないと考えていますが、どうでしょうか?
労働時間(勤務時間)とは、使用者の指揮命令下で、労働時間を提供した時間を言います。実際に作業に従事している時間のみならず、作業の準備や後処理を行っている時間も、その準備行為を事務所内で行うことが使用者から義務付けられている場合には、使用者の指揮監督下で労働を提供したこと、つまり、実労働時間になります。
 また、休憩時間についても、同様に実労働時間とみなされる可能性があります。それは、休憩時間中、労働義務から解放されているか否かや、場所的・時間的拘束の程度等から判断されます。
 本件では、事務所で制服に着替えることを義務付けているようですし、休憩時間といっても、就業しなければならない可能性があり、休憩場所も限定されていますので、いずれも労働時間に当たる可能性が高いと思います。



「パート社員の解雇は?」

私は個人で製造業を営み、数人のパート社員を雇っていますが、先日その1人が、仕事の方法について不満を言ってきたので、解雇することにしました。何か問題がありますか?
まず、世間一般でいうパート社員には、大きく分けて3つの種類があります。①勤務時間を限定する雇用、②3か月間などと雇用期間のみを限定する雇用、③両方が合わさった雇用。
 このうち①の雇用形態は、②③のようにあらかじめ雇用期間を定めておかなければ、労働法上は、期間の定めのない雇用、つまり正社員と同じ雇用契約が締結されていることになり、その解雇は、労働契約法16条の適用を受けますので、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない限り、その権利を汎用したものとして、その解雇は無効になります。
 次に②③の雇用形態は、期間満了時に更新しなければ雇用契約は終了しますが、その期間満了前に解雇する場合には、労働契約法17条の適用を受けますので、やむを得ない事由が認められなければ、やはりその解雇は無効となります。
 従って、ご質問のようなケースでは、ほとんど解雇の要件を満たすことはないと思われますので、解雇が無効とされる可能性が高いと思われます。
 このように、パート社員であっても、労働者保護規定の適用が除外されるわけではありませんので、ご注意ください。



契約社員の「雇い止め」について

私は製造業を営み、契約社員(期間1年)を5名雇用していますが、不況の影響で仕事が減ってしまったので、来月末に契約が切れる1人の社員(過去2回更新)に対し、契約を更新しない旨、申し入れようかと思っています。
 何か問題があるでしょうか?
雇用期間を定めた契約社員は、いわゆる正社員(雇用期間を定めない社員)と異なり、契約期間の満了により、雇用契約が終了します。
 しかし、契約の更新を繰り返していたような場合には、雇い止めが無効とされる可能性があります。
 労働契約法16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇について、その権利を濫用したものとして無効とすると定めています。
 仕事が一時的とか、季節的というわけではなく、有期契約が、実質において、期間の定めの無い契約と異ならない場合や、有期契約の更新に対する合理的な期待がある場合には、「雇い止め」にも、この法律を類推適用した裁判例があります。
 従って、あなたの場合も、今後もし裁判となり、この法律が類推適用されますと、不況を原因とした雇い止めの有効性は、整理解雇の要件(人員削減の必要性、解雇回避のための努力を尽くしたこと、解雇される者の選定基準及び選定の合理性、事前の説明・協議義務を尽くしたこと)の観点から判断されますので、雇い止めをされる前に、この整理解雇の要件を十分に検討すべきと思います。



求人票の時給記載は?

私はサービス業を営んでいます。
 昨年11月に求人票を出し、翌12月からパート社員を雇いました。私は求人票に、時給1,200円と記載しましたが、このパート社員を雇う際、2ヶ月間の試用期間中は時給が950円になるとだけ伝え、特に試用期間後の時給については説明しませんでした。
 現在、この社員は特に問題なく仕事をしていますが、私は、景気が思わしくないので、今年の2月から正式採用するに当たり、時給を950円に据え置こうと思っております。
 何か問題はありますでしょうか?
まず、求人票の記載が、当然に雇用契約の内容になるわけではありません。
 しかし、時給の額というのは、雇用契約の重要な要素になるところです。
 パート社員の求人票に時給を記載した場合、あなたが採用に当たり、正式採用後の時給が求人票と異なることを説明していない限り、応募者は求人票の記載を信用するのが通常です。従って、これに記載された時給が、雇用契約の内容とみなされる可能性が高いと思われます。
 そうすると、時給を950円に据え置くことは、雇用条件の不利益変更になりますので、原則として、そのパート社員の同意がなければ変更できません。また、例外的に、就業規則の変更により減額する場合でも、裁判所は、具体的事情に基づく合理性等のとても厳格な要件を必要としております。
 社員の採用には、採用前に条件を吟味しておくことが肝要です。



過失の負担割合?

私は、運送業を営んでおり、従業員を雇用していますが、先日、その1人が業務中に荷崩れを起こし、荷物の一部を駄目にしてしまったので、荷主に損害10万円を弁償しました。私は、今後、この弁償金を、その従業員に負担させようと考えていますが、どうしたら良いでしょうか?
まず、今回の荷崩れの原因を調べて下さい。そして、その従業員が仕事中に通常求められる注意義務を尽くしていた場合には、その従業員に損害を負担させることはできません。
 次に、従業員に過失があっても、運送業を営むに当たり日常的に発生する程度のことであれば、従業員の勤務態度等によると思いますが、原則として従業員に損害を負担させることはできません。これは使用者が従業員を利用して利益を上げている以上、そのリスクは使用者が甘受すべきと考えられるからです。
 一方、従業員に重大な過失や故意がある場合には、その従業員にも損害賠償義務が発生します。ただし、過失の場合における従業員の負担割合は、按分されることが多く、例えば、最高裁判所の昭和五一年判決(タンクローリー事故を起こした運転手に対する使用者の求償事案)は労働条件、勤務態度、加害行為の態様及びその予防についての使用者の配慮等の諸事情を考慮し、損害の公平な分担という見地から、求償額(従業員に負担させた金額)を損害額の四分の一に制限しました。このような判決を参考に、従業員の方と損害の負担割合について話し合ってみたらいかがでしょうか。




従業員の解雇(勤務成績不良など)について

私は、現在の会社に20年以上勤めている正社員(いわゆる無期雇用)ですが、先日、会社の就業規則にある「労働能力が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するとして、解雇を言い渡されました。確かに、ここ数年の私の勤務成績は良くなかったのですが、余りにも突然のことで、納得できません。会社は、それほど簡単に労働者をクビにできるのでしょうか。
多くの会社では、就業規則にご質問と同様の規定が解雇事由に掲げられており、これに該当するとして解雇が言い渡されることがあります。こうした解雇については、就業規則上の解雇事由に該当するかどうかは、ケースバイケースです。
 しかし、基本的には、正社員における労働能力不足や勤務成績不良といった理由の解雇は、その不足・不良の程度が著しい場合に限られます。裁判例として、次のようなものもあります。「…定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情(労働者に同情すべき事情)がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して」判断すべきと、東京地方裁判所にて平成13年8月10日に決定されました。
 そのため、仮に、会社内での相対的評価が低いという事情のみで、20年以上勤務してきた正社員であるあなたに対して解雇権を行使したとすれば、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」として、解雇は無効であるとされる可能性が高いといえるでしょう(労働契約法第16条)。



従業員の仮眠・休憩時間は「労働時間」なのか?

私は、警備員として警備会社に勤務しています。勤務形態としては、24時間勤務や夜勤があり、その場合は、仮眠・休憩時間が設けられているのですが、その時間については原則として賃金は発生しません。仮眠・休憩時間中の突発的事態に対応して作業を行った場合は、時間外手当を請求できると説明されましたが、いつ作業に従事する事態となるか分からず、仮眠・休憩中でも気を抜くことができません。仮眠・休憩時間の全部を労働時間として算定してもらうことはできないのでしょうか。
労働基準法上の労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされています。仮眠等の不活動時間についても、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合は、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下にあるとされています(最高裁判所平成14年2月28日判決)。
 役務提供の義務付けの有無がポイントですが、過去の裁判例をみると①労働契約上制度的に役務提供の義務付けがあるかという形式的な面に加え、②制度上の義務のみならず実質的にみても義務付けがあるかという枠組みで判断されています。②については、実作業の件数等から、実作業の必要性が生じることが皆無に等しいかが評価されます。
 仙台高等裁判所H25年2月13日判決は、仮眠室に電話・警報装置がなく、休憩時間中に守衛室・仮眠室にいることを会社から指示されてもおらず、また、仮眠・休憩時間を中断して実作業をした事例が少なかった等の事情がある事案において、労働時間性を否定しましたが、他方、特定場所での待機と警報等対応が義務付けられている場合は、役務提供の義務付けが肯定される場合が多いです。ご質問のケースも、契約上、仮眠・休憩中での対応が義務付けられ、かつ、それなりの頻度で要対応事態が発生するのであれば、仮眠・休憩時間も労働時間に該当することになるでしょう。



「賃金支払」の確保等に関して

サラリーマンとしてお勤めの方は、毎月会社から決まった額の給料が口座に振り込まれていると思います。しかし、ある日突然、その当たり前のことが行われなくなってしまったら…?
賃金は、「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」(労働基準法11条)で、人々の生活基盤になるものですから、法律上、その支払いが手厚く保護されています。
 例えば、会社が賃金の支払いを遅滞した場合、年3%の遅延利息が発生します(民法404条)。法律は、遅延利息というペナルティーをかけることで、会社に対し、期日通りに支払うよう促しているわけです。
 さらに、賃金が支払われないまま労働者が退職した場合には、事業者は、退職日の翌日から支払いをする日までの期間について、その日数に応じ、賃金の額に年14.6%を超えない範囲で、政令で定める率(施令1条はこれを14.6%としています)を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない、としています(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)。
 賃金が未払いとなることで、会社との信頼関係が崩れ、結果として退社を余儀なくされるといったケースは少なくありません。その場合、この14.6%という高い利率は賃金確保のための強力な武器となることでしょう。

民事トラブル


債権回収の実務(パート1)

 商取引において代金が未払いとなった場合の一般的対処法について、ご説明いたします。
 まず、商取引をするなかで、期限に代金を支払って貰えないということが起こりますが、このような事態に遭遇した時、まずやっておくべきことは、将来、裁判所等で利用するための証拠を残しておくことです。しばしば商取引の現場では、口頭や見積書だけで取引をされているケースをお見受けしますが、契約を履行したにもかかわらず代金の支払いが遅れ、取引先に問い合わせたところ、「1か月待ってほしい。」とか、「もう少ししたらお金が入るから。」等と言い訳された場合、もちろん取引内容、代金額、期限など記載して支払を約束した念書等を作成させることができれば良いのですが、そのような書面を作成して貰うことができないような場合でも、その取引上、本来、作成されるべきであった書面(例えば見積書に対する発注書やその商品の受取書等)を、この際、作成して貰うようにして下さい。
 このような場面であれば、従来からの得意先であっても、申し訳ないと感じているはずですから、その取引上、本来作成すべき書面であれば、億劫がらずに作成して貰えると思いますし、このような書面があれば、万が一、後日、支払遅延が続いた場合にも法的手続きが取り易くなるからです。




債権回収の実務(パート2)

 今回は催促書の作成方法、特に催告書を「配達証明」付きの「内容証明」郵便で差し出す場合について、ご説明します。
 催告書は、差出人の相手に対する請求の意思を示すことになるだけでなく、将来それでも相手が支払わなかった時の裁判等で利用するための証拠になります。そのため、催告書は第三者にも請求の根拠が分かる内容にする必要があります。誰と誰の間で、いつ行われた、何の取引を原因として、いくらを、いつまでに、どのような方法(持参または振込など)で支払うよう求めるのかを、文章上明確にしてください。
 そして「内容証明」とは、この催告書を差し出したという事実を郵便局が証明する制度であり、「配達証明」とは、郵便物を配達したという事実を郵便局が証明する制度です。
 この2つの制度を併せて利用した催告書を相手に差し出すことによって、相手が「その催告書は届いていない」などと言って争うことを防ぐことができます。この内容証明郵便は、

①同じ内容の催告書3通(相手へ配達する分が1通、郵便局が保存する分が1通、差出人が保存する分が1通)と、差出人と相手の住所氏名を催告書の通りに記載した封筒1通を、郵便局に提出する。

②1行20字以内、1枚26行以内の文章で。2枚以上にわたるときには、綴じ目に契印をする。

③記号や句読点も1字と数えるが、記号によっては、例えば、③は2字、⑩は3字と数える。

④写真や図面等は同封できない。

等々の注意が必要です。
 また、内容証明郵便を差し出すときには、郵便局で訂正を求められることが多いので、その場で訂正ができるように、催告書と同じ差出人の印鑑を持参するのが良いでしょう。
 なお、郵便局へ行かなくても、インターネットで24時間受け付けている電子内容証明サービスもありますが、専用ソフトウェアのインストール等の手続きが必要です。



債権回収の実務(パート3)

 今回は、民事保全手続としての仮差押えについてご説明いたします。
 金銭債権の債権者は、債務者に対して、訴えを提起して勝訴判決を受け、判決の確定を経て、初めて強制執行に着手し得ることになります。その間に債務者が財産を隠匿したり、資産の現状を変更してしまったりすると、せっかく債権者が勝訴判決を得ても強制執行をすることができないという事態が生じ得ます。このような不合理を避けて、債務者の財産の現状を維持し、将来の強制執行を確保する手段として認められているのが「仮差押え」です。例えば、債権者が債務者所有の不動産を仮差押えした場合、債務者は、その不動産につき、売買等の譲渡行為や抵当権等の担保権設定行為その他一切の処分をすることが制限されます。
 仮差押命令の要件としては、①被保全権利(債権者の債務者に対する金銭の支払を目的とする債権)と ②保全の必要性(強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、または強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに認められる。)がありますが、保全事件においては、その緊急性の要請から、厳密な証明までは要求されません。ですから、一般的には、ひととおり客観的な証拠が揃っていれば、仮差押え命令が出ることが多いです。
 ただ、こういった簡易な手続で保全命令が発せられるので、ときとして請求権の完全な確認に欠けることが生じ得ます。そのため、一般的に仮差押えにより債務者の被る可能性のある損害を填補する担保を立てることが発令の要件とされており、その担保を準備できなければ仮差押え命令は発せられないので注意が必要です。

詐欺的営業にご用心

最近の法律相談で、インターネット広告に関するトラブルが散見されましたので、情報提供いたします。
まず、相談内容ですが、インターネット広告の営業電話が掛かってきます。営業マンは、若くて誠実そうな雰囲気の社員で、1か月間の無料キャンペーンをやっているからご協力願いたいというものです。そして、広告の内容は、相談者の営業や求人など様々です。
この営業電話のポイントは、営業マンが入社して間もないことや営業成績が悪いことを告げて同情を誘う点、厳しい上司からキャンペーンだけでも取ってくるよう強く言われており、1か月間だけ協力して欲しいと懇願してくる点です。
相談者は、代金を支払ってまで契約する気が無いことを告げますが、若くて一所懸命な営業マンから契約期間が1か月間で全く費用が掛からないと説明され、これを信用して、「契約書」に判子を押してしまいました。
そして、真面目な広告会社であれば、何の問題もないのですが、中には悪質な業者がいるようで、数ヶ月以上経ってから、突然、広告掲載料を請求してきました。
相談者は、広告会社の請求担当に対し、営業マンから「契約期間1か月」「無料」と説明を受けたと告げますが、請求担当は、これを認めず、契約書に「自動継続」「2か月目からは相当の料金が掛かること」が記載されており、これを支払って貰わなければ法的処置をとると申し入れてきました。
このような法律相談では、常に相談者はきちんと確認したのに、どうして食い違いが生じてしまったのかと尋ねます。
私としては、経験上、このようなケースは、業者の詐欺的営業の可能性が高いと思っています。つまり、現代の詐欺は巧妙化しており、これを企画する上位の者が、役割分担を決めます。例えば、真面目そうな営業社員が騙して、契約書の確認をさせずに作成させ、ある程度の請求額になったところで、請求担当が全く善良な振りをして契約書に基づいて請求をし、騙されたと反論されても、契約書に明記されていることを盾に代金を支払わせるという手口の可能性が高いと思うのです。
真実を証明するためには時間と費用が掛かります。したがって、このような詐欺的営業には引っかからない(門前払いする)ことが一番です。
皆様においては、是非、このような詐欺的営業があり得ることを、頭の片隅に入れておいてください。




出会い系サイト被害について

今回は、出会い系サイトに関する被害について取り上げます。出会い系サイトを利用するためには、通信料のほかにサイト運営業者に利用料を支払うことが必要となっており、通常ポイントを購入して、掲示板を見る、メールを送る、メールを読む、画像を見るなどの各操作ごとにポイントがかかるという制度となっています。

 ところで近時、懸賞サイト、占いサイト、着メロや着うたをダウンロードできるサイトなど無料のサイトにアクセスしたところ、本人の意思とは無関係に出会い系サイトにも同時登録されてしまい、被害に遭うという事例が増えています。

 登録と同時に利用料を請求されるケースもありますが、女性会員は無料であるとか、ポイントをサービスでくれるなどといってあおり、興味本位で利用してみたところ、いわゆるサクラが利用者にポイントを使わせるために会う約束などをしてメールのやりとりに引きずり込む事例も多いです。さらに、実際に会ってみたところ、出会い系サイトを利用したことを家族に暴露するなどと脅され、金品をねだられるという被害もあります。

 対策としては、利用料等の請求があっても安易に連絡したり氏名や住所・勤務先などの個人情報を教えない、執拗な請求はドメイン指定拒否の設定をし必要に応じてアドレスを変更する、メールの内容は証拠として残す等がありますが、お一人で悩まずに、すぐに、消費生活センターや自治体等の法律相談にて相談されるとよいです。




え!?飼い主に民法718条の賠償

私は、自転車で道路左側を走行中、道路脇の邸宅の門扉から、突然、犬が吠えながら出て来たので、驚いて転倒し、怪我をしてしまいました。その犬は、よく見ると鎖に繋がれており、飼い主は、私に飛びかかる危険が無かったのだから責任はないと主張しております。飼い主には本当に責任がないのでしょうか。
民法718条は、動物の占有者は、その動物が他人に与えた損害を賠償する責任を負うとする一方、その動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、責任を免れるとしております。本件では、犬があなたに向かって吠えて、飛び掛かろうとしたものの、実際には鎖に繋がれており、飛び掛かっておりませんので、そもそも飼い主に過失があるのか、また過失が認められたとして、あなたの怪我の責任を飼い主に負わせるべきかが問題になります。
 この点、平成18年に大阪地方裁判所が参考となる判決を出しております。この判決は、本件に似た事案において、飼い主には漫然と飼い犬を連れて自宅から出て、飼い犬が被害者に飛び掛かるような様子で近づいて吠え掛かるのを許した過失があるとしたうえで、飼い犬が被害者に接触していないとしても、驚いた被害者が自転車の運転操作を誤り転倒することは容易に想像できるとして、飼い主に民法718条の損害賠償責任を認めました。したがって、本件でも、飼い主に損害賠償の責任が認められる可能性があると思います。



子供が人にケガをさせてしまったら

私は、先日、自転車で道路を走っていると、狭い脇道から中学生の乗った自転車が急に飛び出してきたことから、これを避けようとして転倒し、大怪我をしてしまいました。しかし、その後、この中学生や親から謝罪どころか、連絡すらありません。私は、今後、治療費や休業損害等の賠償を請求するつもりですが、子の中学生の親に請求することができるでしょうか。
中学生程度の少年が過って他人を怪我させる等の不法行為をした場合に、その親が損害賠償の責任を負うか否かは、その不法行為との関係で、親が子に対する具合的な監督義務を果たしていたかによります。
 東京地方裁判所の平成19年5月15日判決では、13歳の少年が自転車事故を起こした事案で、親は子に対して、交通ルールを守って走行するよう注意し、監督する義務があるとしたうえで、事故後の両親の子に対する言動や被害者に対する言動(この判決では、親の被害者に対する言動が「保険会社に任せたので、うちは関係ない。」というものだけであったと認定しています。)より、この両親は子に対する上記監督義務を果たしていなかったと推認されるとして、両親の損害賠償責任を認めました。
 あなたの場合ですが、中学生の親から連絡が無いとのことであり、親が本件事故を知らないか、全く関心が無い様子が伺われますので、親の子に対する監督義務が果たされていない可能性があります。この監督義務が果たされていないことが認められれば、親の損害賠償責任が認められる可能性があります。





借地借家


アパートの大家さんから更新を拒絶された

現在、賃貸アパートに家族3人で生活していますが、先週、大家さんより突然、「あと半年で賃貸借の期限が切れるけど、更新をするつもりはないので、きちんと明け渡してくださいね。」と言われました。私はこれまで2回契約更新をし、暫くはここに住んでいたいと思っています。どうしたらいいでしょうか。
大家さんの明渡しを求める理由が定かではありませんが、原則として、あなた方は、アパートを出て行く必要はないと思います。まず、アパートの賃貸借契約は、主に借地借家法という法律が規定していますが、この法律は、大家の更新拒絶や解約申し入れを有効とする為に「正当事由」が必要であるとしています。
 この正当事由の存否は、賃貸人と賃借人の建物試用を必要とする事情のほか、建物の利用状況、建物の現状、さらに立退料の申し出の内容等を総合的に検討して、最終的に裁判所が判断します。
 ですから、大家さんの明渡しの申し込みが認められるためには、例えば、どうしても家主自身又はその子どもが居住しなければならないとか、建物の老朽化が著しく、倒壊の危険があるとかの特別の事情が必要になりますし、その事情にもよりますが、明渡しということになれば、あなた方の生活基盤が失われてしまう訳ですから、多くの場合、大家から相当の立退料の申し出がなければ、正当事由が認められることにはならないと思います。



暮らしに役立つ法律情報


成人年齢が引き下げられます!

 令和4年4月1日、成人年齢を20歳から18歳に引き下げることを内容とする法律が施行されました。施行日の時点で18歳・19歳の方は、施行日において成人に達するものとされます。
 そもそも、民法が定める成人年齢とは、①一人で有効な契約をすることができ、②父母の親権に服さなくなる年齢のことをいいます。今回の引き下げによって、18歳・19歳の方は、一人暮らしの家の賃貸借契約やクレジット契約、ローン契約等、親権者の同意を得ずに様々な契約をすることができるようになります。
 一方、健全な育成の観点から、飲酒や喫煙、公営競技(競馬、競輪、競艇等)の年齢制限は、20歳のままとされています。
 今後、18歳・19歳の方は、一人でした契約を、親権者の同意の不存在を理由に取り消すことができず、トラブルに巻き込まれる可能性が高くなります。できることの幅が増える分、より慎重に判断するようにしましょう。
 なお、成人式の実施方法については、各自治体の判断に委ねられており、一律の定めはありません。春日部市では、18歳が進路決定の重要な時期であること、20歳と比べて権利に制限があることなどを理由に、今後も、毎年1月上旬に、20歳を対象とした成人式を開催するとしています。




その他


少年の刑事事件

私の息子は中学3年生ですが、昨日、同級生たちと一緒になって他の中学校の生徒を殴り、怪我をさせたということで警察に逮捕されてしまいました。中学生なのに、大人と同じように逮捕されるなんてことがあるのでしょうか。また、息子は今後どうなるのでしょうか?
中学3年生の少年といえども、犯罪に当たる行為をすれば、大人の場合と同様に逮捕されることはあります。どういうのことかと言いますと、まず、①少年法は、20歳未満の人を「少年」、20歳以上の人を「成人」とし、②少年の刑事事件については、少年法で定める以外は一般の例による、としていて、少年の刑事手続について、成人の刑事手続きとは異なる特別の規定を設けていますが、③少年の逮捕を禁止することまでは定めていないので、少年といえども成人と同様に逮捕されることはあるのです。
 そして、身体拘束された少年の、刑事事件の一般的な手続きの流れは、逮捕→拘留→家庭裁判所に送致→観護措置→審判ですが、少年の場合には、「やむを得ない場合でなければ」拘留はできないとされていて、成人の場合よりも、拘留される場合が制限されています。
 また、観護措置とは、通常、少年鑑別所に送致することを意味し、多くの場合には、家庭裁判所が少年に対する処分を決定する手続である審判の日まで、3週間から4週間、少年鑑別所に収容されることになります。



養子縁組を継続し難い重大な自由とは?

私は長年農業をいとなんできましたが、後継者がおらず、甥を養子にしました。
 しかし、その甥は、農業を手伝うと言っていたにもかかわらず、実際には仕事が忙しいと言って、あまり手伝ってくれません。そして、私が文句を言いますと、逆ギレして暴言を吐く始末で、私は現在、離縁を考えております。
 どのような場合に、離縁が認められるでしょうか。
民法814条1項3号は、離縁の実質的要件として、「縁組みを継続し難い重大な事由があるとき」と定めており、諸般の事情を総合して、養親子としての生活の継続を到底望み得ない状態に立ち至っている場合がこれにあたる、とされています。
 そして、最高裁判所の昭和60年12月20日付判決は、専業農家の養子縁組の案件で、養子の養親に対する暴行の経緯や養子の和合に向けた真摯な態度の欠如等を理由に、養親子関係の破綻を認めました。
 なお、高等裁判所は、同じ案件で破綻を否定しましたが、その理由として、定職に就いている甥を養子にしたことや、養子の農作業に対する態度が不満で養親が叱責したことから、養子が一時的に暴行したと認定し、このような暴行は一般の親子関係でも見られることと述べました。
 今回の質問ですが、単純に養子が期待どおりに農業を手伝わないということだけを理由に離縁を主張するのは難しいと思います。ただ、この最高裁判決は、特に老齢の養親に対する養子の暴行は、養親子関係を破綻に導く行為として重視されるべきと述べられており、養子の暴言の頻度、その強さや内容によっては、離縁が認められる1つの理由になり得るものと思います。